鏨師 平岩弓枝

鏨師(たがねし) 平岩 弓枝 文春文庫/1977年12月

 

 「鏨師」は、平岩弓枝が昭和34年(1959年)に直木賞を受賞した作品です。

 この本の5編の短編タイトルと初出年月は以下の通りです。

 鏨師:昭和34年2月 / 神楽師:昭和33年9月 / つんぼ:昭和32年8月 /

狂言師:昭和34年7月 / 狂言宗家:昭和34年10月

 「狂言師」だけが江戸時代の話ですが、それ以外は第二次大戦中から話昭和30年代ごろの話です。題材がかなり偏っていると思いますが・・・神楽とか狂言とか、良く分からないですよね。

 著者は代々木八幡神社の宮司の一人娘で、昭和7年生まれ2023年に亡くなっています。代々木八幡宮は鎌倉時代に鎌倉の鶴岡八幡宮からの分社で渋谷区代々木に創建された由緒正しい神社です。小田急線に「代々木八幡」という駅もあります。上記の作品は、すべて20に代書かれた作品ですが、題材に神楽や狂言が多いのも育った環境によるものでしょう。

 みなさんも馴染みがないと思いますが、 鏨(たがね)とは中央を手でもって、端部を金づちで叩き金属の表面に筋状の溝を掘る金属製の道具です。私も使ったことはありません。 

さて本題ですが、「鏨師」の話は、鏨を使った鑢(やすり)の目切師が機械化により職を失い、偽銘切(無銘の日本刀に偽の銘を刻印する贋作)に手を染めていく、それを阻止しようとする鑑定家との確執の話です。芸術品の真贋とその価値とは何なのか。絶対的なものなどない?

・・・考えさせられる作品です。文庫で40ページ程度なので、読んでみてはいかがでしょうか。世界が広がるかもしれません。

 日本刀の中子(なかご:刀の束の部分に目釘で止められている)には作者の銘が切られていますが、これを刻むのに鏨を使うようです。ここでいう鑢は金属製で斜め左右に溝が切られたもののようです。鑢の溝は狭い間隔で正確に刻む必要があるので、非常に神経を使う仕事だと思います。やりたくはないですね。

 有名な作者の日本刀には銘が切られていますが、無銘でもできのいい日本刀も多く存在しいているらしく、偽銘の贋作も出回っているようです。